拡張機能の日本語翻訳に潜む「罠」と、私が辿り着いた究極の解決策
Joomlaをはじめとする海外製のCMSや拡張機能を使っているエンジニアの皆さん。皆さんは、配布されている日本語言語パックをどのように捉えていますか?
かつての私は、それを「公式が用意した正解」だと疑いもしませんでした。しかし、多くのサイト構築を経験する中で、少しずつ、しかし確実に「違和感」が積もっていったのです。「この設定ボタン、ラベルの日本語と実際の挙動が噛み合っていない気がする……」
その小さな違和感はやがて、クライアントを巻き込む大きなトラブルへと発展することになります。
1.「善意」という名のブラックボックスに潜むリスク
多くのオープンソースや海外製ツールにおいて、日本語化は「有志のボランティア」という善意の文化によって支えられています。これはコミュニティの発展には不可欠な素晴らしい仕組みですが、実務で使用する場合には、時に残酷なリスクを孕んでいます。
「とりあえず」の放置:
・主要な箇所だけが翻訳され、設定の奥深くは英語のまま。あるいは、直訳すぎて意味が通じない「迷訳」の状態。
バージョンの断絶:
・本体は頻繁にアップデートされ新機能が増えていくのに、翻訳ファイルだけが数年前のバージョンで止まっている。
文脈の欠如:
・システムのソースコードを理解せずに言葉だけを置き換えた結果、肯定と否定が逆転して伝わってしまうような致命的な誤訳。
私はある時、この翻訳ミスを信じ込んで設定を行った結果、クライアントのサイトで取り返しのつかないデータ整合性のミスを犯してしまいました。原因を突き止めた時、目の前にあったのは「とりあえず空欄を埋めるためだけに入れられた」不正確な言葉たちでした。
2. 私が「自力翻訳」というストイックな道を選んだ理由
その失敗以来、私は自分自身に一つのルールを課しました。それは、「仕事で使う拡張機能は、どんなに手間でもすべて自分で翻訳し直す」ということです。
今では、新旧バージョンの言語ファイルをdiff(差分)で比較し、どのフレーズが追加され、どの仕様が変更されたのかをソースコードレベルで突き止めるのが習慣です。もちろん、これには膨大な時間がかかります。しかし、それ以上に大きな「メリット」があることに気づきました。
「意図」の深い理解:
・翻訳作業は、開発者がその機能に込めた「意図」を読み解く作業そのものです。マニュアルを斜め読みするよりも、システムの仕組みが骨の髄まで理解できます。
マニュアル不要のUX:
・自分が一番しっくりくる「現場の言葉」を当てることで、操作画面そのものがマニュアルになります。これにより、運用時の作業効率が飛躍的に向上するのです。
3. AI時代でも「言葉の最後の一揉み」が不可欠なワケ
「今はChatGPTやDeepLがあるから、一瞬で終わるのでは?」と思われるかもしれません。確かにAIの精度は驚異的です。しかし、AIが提示するのはあくまで「平均的な優等生の翻訳」です。
UI(ユーザーインターフェース)における翻訳とは、単なる置換ではありません。「そのボタンを見たユーザーが、迷わず直感的に動けるか」というUX(ユーザー体験)そのものなのです。
プロジェクトの性質、使う人のスキルレベル、そして現場のワークフロー。これらを考慮して言葉を「揉む」作業は、人間にしかできません。
4. 翻訳文を有償でしか提供しない、本当の理由
だからこそ、私は自分が心血を注いで完成させた翻訳文を、無償でバラ撒くことはしません。共有した後に「ここが違う」「あちらの表現の方が良い」といった指摘を受けることもあります。もちろん、納得できる内容であれば修正しますが、そこにあるのは単なる「趣味」ではなく、プロとしての「責任」と「検証」の積み重ねです。
私の翻訳ファイルは、公式パックをただコピーしたものではありません。血と汗と、そして失敗から学んだ涙で洗練された「実戦用ツール」です。道具にこだわる職人が自分の工具を安易に貸し出さないのと同じように、私はこの究極の日本語化ファイルを、その価値を理解し、対価を払ってくださる方にのみ、有償の成果物として提供したいと考えています。
皆さんは、目の前の翻訳をそのまま信じていますか?ツールを本当の意味で自分の「手足」にするためには、最後の一揉み――自分好みの言葉に書き換える作業――が欠かせないと、私は確信しています。