実証実験は誰のためにあるのか
仙北市は二〇一五年に国家戦略特区に指定された。以来、いろいろなことが行われている。
ドローンで図書を運ぶ実証実験が二〇一六年。ドローンで農産物を運ぶ実証実験が二〇一九年。その翌年にも、またドローンで農産物を運ぶ実証実験。ほかに無人運転バスの公道実証、自動運転の共同実証、農業用のセンサーとAIによる病害の予測、観光地でWi-Fiを使って人の流れを調べる調査。
一市民として正直に書くが、私はこれらのどれかを使って暮らしが良くなったと感じたことが、一度もない。
以前ならここで筆が止まった。感じたことがない、と書いたところで、それは私一人の感想でしかないからだ。
ところが調べてみたら、市も同じことを訊いていた。しかも五年分、答えが公表されていた。
五年分の答え
仙北市は毎年、市民意識調査というものをやっている。施策を一つずつ挙げて、満足しているかを市民に訊く。結果は全部ホームページに出ている。
令和三年度。このときは五段階の点数を平均する方式で、真ん中が3.00だった。
近未来技術実証・実装の推進 満足度2.83
特区を活用した産業振興 満足度2.86
高度情報化の促進 満足度2.91
三つとも真ん中を割っている。市の評価も三つともCだった。Cというのは「重要度は3.00以上だが満足度は3.00未満」、つまり大事だと思われているのに満足されていない、という区分である。
その後、施策の名前は何度も変わる。令和五年度には「地域DX、庁内DX等を通じた地方創生の推進」という項目が新しく登場した。満足10.3パーセントに対し不満22.5パーセント。「わからない」が57.6パーセントもあった。
令和六年度からは「移住定住の促進、多様な生活スタイルへの対応、近未来技術実証・実装の推進」という長い名前になる。
令和六年度 満足17.4パーセント 不満48.7パーセント
令和七年度 満足18.3パーセント 不満51.9パーセント
そしてこの項目は、令和六年度の四十三施策のうち、不満がいちばん高い項目だった。令和七年度は五十六施策に増えたが、やはりこの項目が不満の最も高い項目だった。
二年続けて、全施策中の最下位である。
名前は変わり続けているが、市民の答えは五年間変わっていない。
一・六パーセント
もう一つ、令和七年度の調査に新しい設問が加わった。
仙北市はPHRアプリ「健康DX手帳」というものを出している。それを利用しているかを訊いたところ、こうなった。
仙北市の健康DX手帳を利用している 1.6パーセント
一般企業の健康アプリを利用している 6.3パーセント
利用していない 92.1パーセント
そして利用していない人に「今後、市のアプリを利用したいと思いますか」と訊いた答えが、利用したい22.0パーセント、利用するつもりはない78.0パーセントだった。
千人以上に訊いて、使っている人が十八人前後という計算になる。
なぜこうなるのか
腹を立てる前に、少し調べてみた。だいたい見当がついた。
この種の事業の多くは、国の交付金で動いている。そして交付金には、あらかじめメニューがあり、締切がある。
だから順番が逆になる。本来なら「地域に困りごとがある、だから解決策を探す」のはずが、実際には「交付金のメニューと締切がある、だからそれに合う事業を組み立てる」になる。困りごとが先ではなく、金が先になる。
さらに、自治体にデジタルの分かる職員がいないことは、国の資料の中でもはっきり課題として認められている。仙北市の規模で専門の技術者を何人も抱えるのは、現実的ではないだろう。となれば、出来合いの仕組みを持ってきた会社に任せるしかない。
目的より先に、道具が決まる。
そして実験が終われば報告書が残る。実績が残る。それが次の申請の材料になる。そうやって回っていく。回っているあいだ、私の暮らしは何も変わらない。
誰のためのデジタルか
令和六年度の調査に、こんな設問がある。
「同居の家族でスマートフォンを持っていない方はいますか」
持っていない人がいる、と答えた世帯が49.9パーセント。半分である。そしてその持っていない方の年代は、七十歳以上が72.5パーセントだった。
仙北市の公式LINEに登録している人は、令和七年度で48.2パーセント。登録していない人が50.4パーセント。
半分の家に、スマートフォンを持たない人がいる。半分の市民が市のLINEに登録していない。その状態で、アプリを配り、DXを進めている。
回答者の四割は七十歳以上で、九割は二十年以上この土地に住んでいる人たちである。その人たちに向けて設計されているのだろうか。
反対の言い分
公平のために書いておく。
人が減り、職員も税収も減っていく町で、多少の無駄が出ても手を打ち続けるしかない、という主張は成り立つ。何もしなければ確実に何も起きないのだから、当たるかどうか分からなくても打つべきだ、と。
実証実験というのは、そもそも失敗を含む営みでもある。失敗したことを責めれば、誰も新しいことをやらなくなる。それもその通りだと思う。
新しい仕組みが根づくのに時間がかかることも、その通りだろう。使う人が最初は少ないのも当たり前だ。
だが、五年である。
令和三年度に2.83だった。令和七年度に不満51.9パーセントで最下位だった。そのあいだ、市民の評価は一度も上を向いていない。時間の問題だと言うには、少し長すぎるのではないか。
結び
私は実験をやめろと言いたいのではない。
言いたいのは一つだけである。この五年間、市民は同じ答えを返し続けてきた。それは市が自分で集め、自分で公表している数字だ。誰かが外から持ち込んだ批判ではない。
その答えを、市は読んだのだろうか。
読んだうえで、それでもこの方向でいくと判断したのなら、そう説明してほしい。何がうまくいって、何が駄目で、だから次はこうする、と。それが分かれば納得もできるし、応援もできる。
読んでいないのなら、話は簡単だ。まず読んでほしい。市のホームページに、五年分そのまま置いてある。