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なぜ詐欺は、減らずに増え続けるのか

| Alaudae.JP

前に、警察官を名乗る電話詐欺のことを書いた。書きながらずっと引っかかっていたのは、これだけ注意喚起されているのに、なぜ被害が減らないのかということだった。

調べてみたら、減っていないどころではなかった。


警察庁の確定値によれば、2025年の特殊詐欺の被害額は1423億1000万円である。前年が718億8000万円だったから、一年でほぼ倍になった。認知件数は2万7832件で、こちらも過去最悪。一日あたりの被害額に直すと、3億9000万円が毎日どこかで消えている計算になる。

そして警察庁自身が、増加の主な要因として名指ししているのが「ニセ警察詐欺」だ。前回書いた、あの手口である。

さらに言えば、これとは別枠でSNS型の投資詐欺とロマンス詐欺があり、こちらの被害額は1834億3000万円。合計すれば三千億円を超える。国家予算の話をしているのではない。詐欺師が一年で持っていった金の話だ。

なぜこうなったのか。理由は大きく三つあると思う。

ひとつめは、標的が変わったことだ。

ニセ警察詐欺の認知件数を年代別に見ると、最も多いのは30代で2239件、次が20代で1718件である。若い世代が、件数のうえでは先頭に立っている。

これは大きな変化だ。これまでの特殊詐欺は高齢者を狙う犯罪だった。だから対策も、注意喚起も、金融機関の窓口の警戒も、高齢者向けに組み立てられてきた。そこへ「自分は関係ない」と思っていた現役世代が、まるごと標的として流れ込んできた。防波堤のない場所に水が入ってきているようなものだ。

ただし、被害額で見ると景色が変わる。金額がいちばん大きいのは70代で274億円、次が60代で256億円だ。件数では若い世代、金額では高齢世代。つまりどちらの世代も、それぞれ別の形で削られている。どちらか一方の問題ではない。

ふたつめは、金の抜き方が変わったことだ。

既遂一件あたりの被害額は523万6000円で、前年の350万3000円から170万円以上も跳ね上がっている。一件が高額化している。

理由ははっきりしている。ニセ警察詐欺では、逮捕を免れるためには全財産を調べる必要がある、という理屈で、資産を根こそぎ送らせるからだ。数十万円を騙し取るのではなく、その人の持っているもの全部を狙いにいく設計になっている。

そして送金の手段が、ネットバンキングと暗号資産に移った。

ここが本当に痛いところで、これまで日本の特殊詐欺対策で最も効いていたのは、実は制度でも法律でもなく、人間だった。銀行の窓口で「何にお使いですか」と声をかける行員。コンビニで電子マネーを大量に買おうとする客に「それ、詐欺じゃないですか」と踏みとどまらせる店員。あの水際で、相当な件数が止まってきた。

画面の中で完結する送金には、その人がいない。誰も声をかけない。止める場所がなくなった。

みっつめは、拠点が海外にあり、しかもAIが言葉の壁を消したことだ。

詐欺に使われた電話番号のうち、実に75.5パーセントが国際電話番号である。四件のうち三件が海外からということになる。摘発が届きにくいのは当然だ。

そこへ生成AIが入ってきた。警察庁は、AIに映像や文章を作らせ、自動音声で応答させることで、言語や地域の壁を越える形に手口が巧妙化していると分析している。

前の記事で、勝手にかけてきて機械の声で喋る電話について書いた。あれがまさにこれだ。かつては日本語を話せる人間を揃えなければ日本人は騙せなかった。今は違う。人手をかけずに、何万件でも試せる。

その証拠になる数字がある。詐欺が疑われる予兆電話の件数が、2025年は33万1653件。前年から7割以上増えている。実際の被害件数の十倍以上の電話が、かかってきては空振りしているわけだ。網が大きくなったのではない。網を投げる回数が桁違いに増えている。

では、日本が詐欺師のターゲットにされてしまったのか。

半分はそうだと思う。家計の金融資産が多く、現金志向が強く、そして警察や役所への信頼が高い社会は、権威を騙る詐欺にとって効率のいい市場だ。日本人が真面目で、公的機関の言うことを聞くという性質が、そのまま弱点として使われている。

ただ、同じ構造の被害は各国で起きていて、日本だけの現象ではない。国境をまたいで、AIで自動化された詐欺産業ができあがっていて、そこから見て日本が採算の合う市場のひとつになっている、というのが正確なところだろう。

数字を並べると、絶望的な気分になる。

だが、忘れないでほしいことがある。この三千億円は、一件一件の電話の積み重ねでできている。そして一件一件は、電話を切れば止まる。

倍増した被害額も、75パーセントの国際電話も、AIによる自動化も、こちらが受話器を置いた瞬間には何の意味も持たない。相手がどれだけ大きな仕組みを持っていようと、最後の一歩は、あなたが自分の手で金を送るかどうかだ。そこだけは、まだこちらの側にある。

知らない番号には出ない。出たら切る。誰かに話す。

やることは、それだけ変わっていない。


最後に、なぜ自分がこんなことを書いているのかについて。

正義感でやっているわけではない。そんな上等なものではない。

書くことで被害に遭う人が一人でも減れば、それだけ当たり前の世界に近づく。ただそれだけのことだ。真面目に働いて、真面目に貯めた金が、電話一本で消えていく。そんな状態が日常になっているほうが、どう考えてもおかしい。

要するに、正直者がバカを見るのが嫌いなのだと思う。