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杖突きオヤジ、啖呵を切る

| Alaudae.JP

えー、お運びのご一同様、ちょいとお耳を拝借。

生まれはどこだか育ちはどうだか、そいつはまあ置いといて、住まいはみちのく雪ん中。姓は雲雀(ひばり)、名は勇(いさむ)、人呼んで「杖突きのオヤジ」と発します。

なに、あと三年で還暦だって? ――笑わせちゃいけねえや。赤いちゃんちゃんこがなんぼのもんでえ。こちとら二十年も前から杖ついて歩いてる、筋金入りの年季もんだ。今さらジジィだのジイさんだのオジさんだのと呼ばれたって、痛くも痒くもねえんだよ。

さあ、ここからが本題だ、お立ち会い。聞いて驚け、今を去ること二十七年前、あたしゃ一度、三途の川の渡し場まで行った男よ。ところがどっこい、閻魔様が帳面めくって一言、「お前はまだ早え。娑婆にやり残しがあんだろう」――ってんで、すごすご追い返されてきたって寸法だ。
以来この命は天からのもらいもん、言ってみりゃオフタイムの居残り組。もらったもんは返すのが渡世の仁義ってもんだろう。さて、誰に返すか、何で返すか。

思い起こせば病院のベッドの上、白衣の天使の優しさが、骨身に沁みたねえ。ようやく退院してみりゃあ、今度は望みも張り合いもねえ。そんな男の耳元へ、海の向こうはチェコの国、女達の歌声と笑顔が届いたのよ。「おい、生きてろよ」って言われた気がしてねえ……。その日からだ、あたしゃ腹ぁ決めた。この恩は、世界中の女性に返すってな。

とは言ったって、ご覧の通りの色男――でも金持ちでもねえこの身の上。できることといやあ、リハビリ仕込みのこの手仕事。
さあさ、お立ち会い。物の始まりが一ならば、籠の始まりゃ縦と横、編んで交わる縁(えにし)の綾。結構毛だらけ猫灰だらけ、角は取れても心は込めた、正真正銘オヤジの手編みだ。
これが効いてるんだか届いてるんだか、そいつばっかりは神様仏様に聞いてくれ。けどようやくその形が、還暦まであと三年って今、出来上がったってわけだ。

ついでだ、白状しちまおう。あたしにゃ医者も匙を投げた持病がある。不治の病ならぬ「不二の病」、その名も天下の「寅さん病」。勝手に惚れちゃあ振られ、振られちゃあまた惚れて、気がつきゃ婚期は峠の向こうだ。恋の病に効く薬は、日本国中、いや世界中探したってありゃしねえ。
だから、やり口が怪しいだの何だのと言われたって、そいつは仕方がねえ。けどこれだけは、天地神明に誓って言わせてもらう。後ろ暗いことは、これっぽっちも、しちゃいねえ!

還暦越えようが古希になろうが、命の続く限りこの稼業、やめるにやめられねえときてる。
え? いい加減、落ち着いたらどうだって?
――おいおい、それを言っちゃあ、おしめえよ。

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